コラム

「直B問題」とは何か

就労アセスメントの導入背景から活用方に迫る
「直B問題」とは、特別支援学校を卒業した生徒が、直ぐに就労継続支援B型事業所を利用できないという問題です。従来、就労継続支援B型事業所に受け入れてもらうためには、利用者が自ら希望し、手続きを行うという手順でしたが、平成27年4月より、「就労アセスメント」の提出が求められるようになったことによって、必ずしも希望した通りに利用できるわけではなくなりました。国は、就労アセスメントの導入によって、希望する利用者の利用が適切なのかを、一般就労等を含めた就労支援サービスの将来的な可能性を視野に入れてアセスメントする必要があると考えています。本記事では、直B問題について紹介するとともに、就労アセスメントの導入背景から活用方についても触れていきます。
触法障害者とは
知的障害などの精神障害があるにも関わらず、福祉サービスを受けることなく、罪を犯した精神障害者を「触法障害者」と呼びます。触法障害者は、「精神障害」と「触法者」という二つの意味を合わせ待っていることにより、社会復帰が難しいという状況があります。出所後に福祉サービスや更生施設での受け入れがない場合、生活能力やIQの低さから再犯を繰り返しやすくなります。触法障害者の社会復帰を妨げる要因の一つとして、刑法第39条 「心神喪失者の行為は、罰しない。2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」の存在があります。 これによって、触法障害者は、犯罪を起こしても罪を免れるケースがあるという社会的な見方が浸透しており、支援側が再犯を恐れるあまりに触法障害者の支援が展開しずらくなっています。出所をしても社会のなかでの拠り所を見つけられない触法障害者は、塀の中に戻りたいがために再犯を犯す者も少なくはありません。刑務所が「福祉の最後の砦」となっている現状は社会的な課題といえるでしょう。
触法障害者の特徴
令和2年度の知的障害者や統合失調症などを含む精神障害者による刑法犯は検挙総人数のうちの0.7%でした。罪名別で最も多かったのが、放火(14.8)及び、殺人(6.9)となります。触法障害者は障害を持たずに罰せられた人と比べていくつかの特徴があります。 以下の項目から紹介していきます。
①精神障害者のうち2割強が軽・重度の知的障害者
平成26年2月1日から3月14日までの間に刑事施設から出所した精神障害者の出所調査において知的障害者の割合は451人中66人に上ります(平成26年度法務省特別調査)。
入所するまで、知的障害を持っていることを知らない触法者も少なくはありません。障害認定が降りていないことで、地域の福祉支援を受けずことが出来ず、生活困窮に陥った結果、罪を犯してしまうというケースが多発しています。
②家族や身寄りがいない
触法障害者のなかには、家族や身寄りがいないことによって、生活困窮に陥り、窃盗や無賃飲食、無賃乗車などの詐欺罪を働く人が多くいます。彼らの生い立ちを見ると、幼少期から虐待やネグレクトを受けて育った人や、両親共々知的障害を有しており、一般的な生活や教育を受けていない人など環境的要因も大きく影響しているとわかります。
④懲役期間が3年未満
知的障害者による罪名として多いのが窃盗や詐欺罪です。数千円単位の金銭の略奪や無縁飲食などの微罪が多く、刑期は3年未満がほとんどです。
⑤満期出所が多い
身元引き取り人がいないことで、刑期が終了するまで仮出所に至らないケースが多くあります。出所後の帰住先を持たない触法者は、役所等での手続きも困難となり、必要な支援が受けられず再び生活困窮に陥るという悪循環も発生しています。
⑥再犯期間が短い
触法障害者は累犯障害者になる割合が高く、再犯期間が短いという特徴があります。平成26年度の調査では、出所後に窃盗罪を含む財産犯の再入所者50人のうち12人が知的障害者、38人がそのほかの障害を持っていました(平成26年度法務省特別調査)。犯行の動機としては「体調不良」や「家族と疎遠及び身寄りがない」「自己使用・消費目的」といったものが多く、身寄りがないことによって衣食住が困難となる状況や知的障害があることにより、金銭管理ができないといった状況が起きているとわかります。
塀の中の障害者
平成26年2月1日から3月14日までの間に刑事施設から出所した精神障害者の出所調査において知的障害者の割合は451人中66人に上ります。そのうち、知的障害以外の障害を持つ出所者は385人でした(平成26年度法務省特別調査)。平成21年に地域生活定着支援事業が開始されるまでは、司法と福祉関係者間での情報交換や提携はなく、高齢者や精神障害者といった福祉支援を必要とする出所者に対して、生活訓練等の専門家による支援は行われてきませんでした。
出所後に必要な生活支援が受けられないために、再犯を繰り返してしまう触法障害者は少なくありません。セーフティーネットであるはずの支援が行き届かないことにより、必要な支援を受けられない障がい者が居場所を求めて、刑務所や矯正施設に頼らざるを得ない状況があります。
触法障害者への支援と役割
地域には触法障害者の支援を行う公的な機関が点在しています。ここでは、支援サービスを行なっている事業所を紹介していきます。
司法と連携して触法者を支える−地域密着支援センター–
障がいを持つ多くの受刑者が出所後に福祉サービスを受けることができない状況を受けて、国は平成21年度より地域生活定着促進事業を開始しました。令和3年度からは、刑事司法手続きの段階において自立した生活が困難だとされる被疑者・被告人もサービスを受けられます。同事業では、各都道府県において、配置される地域密着支援センター刑事司法関係期間と地域の福祉関係機関と連携を取ることによって、受刑者の拘束中から仮釈放までの一貫した相談支援を行うことが可能です。地域密着支援センターでは、社会復帰や地域生活の実現を支援することを目的としています。 地域密着支援センターの主な業務は以下のとおりです。 1.コーディネート業務…矯正施設を退所する予定の人の帰住地調整支援 2.フォローアップ業務…矯正施設を退所した人を受け入れた施設等への助言等 3.被疑者等支援業務…被疑者、被告人の福祉サービス等の利用調整や釈放後の継続的な援助等 4.相談支援業務…犯罪をした人・非行のある人等への福祉サービス等についての相談支援
保護観察所
保護観察所では、罪を犯した人や非行を働いた少年に対して、社会のなかで更生していけるように保護観察官及び、保護士によって指導と支援を行う場所です。法務省設置法及び、更生保護法に基づいて全国に50箇所設置されています。保護観察所では必要に応じて、出所後の就職先の斡旋や受け入れ先の手続きを行い、対象者が出所後に自立した生活を送れるよう環境整備や体制づくり、継続的な支援を行います。
触法者を受け入れることで再犯を防ぐ
触法者の多くは、加害者になる前は被害者であったといわれるほど、社会的に孤立し、ネグレクトや虐待、親族や他人からの金銭搾取などの被害を受けてきた過去を持っています。彼ら彼女らが出所後に社会のなかで自立して生きていくためには、地域社会との信頼関係の構築が必要不可欠です。 福祉事業所においては、触法者を受け入れることで職員や他の利用者に危害が及ぶのではないかと受け入れが進まない現状があります。しかし、再犯を防ぐためには、これまで彼ら彼女らに支援が行き届いていなかった現状を受け入れ、事業所全体で協力しながら支援が必要な利用者一人ひとりと向き合い、彼ら/彼女らの社会復帰を支えていく必要があります

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